バルカー乗船記その22(2018年7月2日 乗船40日目)スールー海に入ったが、海賊出るのか?
7月1日
本船は順調にジャワ海を進んでいく。めまぐるしく変わる天候や。付近を航行する大型船の動向に注意をしながら進んで行った。午後セルベス海に入る。
船上で機器に異常がなければルーティン作業、例えば燃料ラインのフィルター掃除や、廃油の移送、または通常定期整備を黙々とこなしていくだけだ。
本日夜、赤道を通過し北半球に入った。
7月2日
本日早朝から海賊発生海域に入るので、主機関の回転数を最大まであげ、スピードをマックスとした。機関部は早朝より当直体制に入り、緊急事態に備えている。
朝6時過ぎにシブツ海峡の入口に差し掛かった。
海賊発生海域となっているエリアはフィリピン南部のミンダナオ島を拠点にして活動しているアブ・サヤフ・グループと呼ばれるイスラム武装勢力が存在する。
ドゥテルテ大統領になってからアブ・サヤフ撲滅に力を入れているとのことだが、現況に関する情報は本船には届いていない。
スールー群島のホロ島を拠点としていると言われているが、シブツ海峡はすぐ近くであり、一般商船も攻撃を受ける可能性がある。
海はべた凪に近いので船橋当直の人間は見張りしやすいが、フィリピン側の警備艇らしきものが見当たらない。。本当に危険海域なのかと疑ってしまうぐらい穏やかだ。
海上に浮遊物がっ!
どうやら漁師さんが海に入れている網のブイのようだ。
やはり午前中が一番狭いところなので、心なしか航行船舶が多い気がする。
危険海域航行中は特に注意して重要機器の点検を行う。この機械は操舵機の一部だ。操舵機が故障すると船の舵が効かなくなる。
毎日の機関室巡検では、各機器の運転状態を音、温度、におい、振動など五感を使って確認してゆく。その中で重要な確認作業の中の一つが燃料油タンクのドレン(重質分)切りだ。
補給した燃料はまず数千トンもの大きな容量をもつ燃料油置きタンクの中に貯蔵される。そこから毎日使用する燃料だけを機関室内にある小さな燃料油セットリングタンクに移送する。セットリングとは英語のSettleで沈殿、沈下させるという意味で、まさに不純物をタンク内で沈殿させる。
補給した燃料油はあまり綺麗でないので、機関室燃料油セットリングタンクから清浄機という遠心分離機で燃料油を遠心分離し、不純物を取り除いている。
この正常された油を今度は機関室燃料油サービスタンクという燃料に移送し、このタンクからいくつものフィルターを通して主機関や発電機の燃料油として供給している。
燃料油セットリングタンクおよびサービスタンクの底にも燃料油より重い重質分や水分などが常に沈殿するので、それをこの赤いレバーを押してバルブを開け、タンク内より取り除く。これを怠ると、特に水分が燃料油ラインに入って蒸発し、燃料油が主機関や発電機に行かなくなり、最悪航行不能に陥る。地味だけど重要な仕事だ。
双眼鏡で島々を確認すると、青い海、白い砂の美しいビーチが広がっている。が、建物は掘っ建て小屋であった。治安を安定させれば立派なリゾート地になるに違いない。
だんだんべた凪になってきた。久々に綺麗な海面状態を見ることができた。
おっ、もう昼か、今日はうな重もどきにスパイシーチキン?
うなぎはもう少し増やして欲しい。(涙)
昼からは海鳥がまたやってきた。べた凪なのでトビウオを見つけやすいのだろうか。
午後になり、少し風と雲が出てきたな。
主機関も順調だ。もうすぐシブツ海峡を抜けるだろう。
厨房も晩ごはんの準備で大忙しだ。23名の食事を2人のコックで作っている。1人は日本人用、もう1人はフィリピン人用だ。その他メスマンと呼ばれる給支人が1名の合計3名が司厨部のメンバーだ。
さて、晩ごはんまで船橋に行って外を眺めよう。